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ゴールドマン出身・吉岡氏:「金融業界での経験がなければ、今の自分はない」彼女が今、ソーシャルで働く意義に迫る(前編)

外資系 金融 証券
2016年4月4日(月) | 19,601 views

「外資BIG5特集」の第4弾は、世界的人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスの創設メンバーとしてキャリアをひらいた吉岡利代氏へのインタビュー。

高校・大学時代を海外にて過ごした吉岡氏は、帰国後に新卒で外資系金融会社の投資調査部に勤務。そして、幼少時からの夢を叶えるべく、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所を経て、現職に携わる。彼女にとって、仕事とは、生きるとは何なのか。

前編では、吉岡氏が今、ソーシャルセクターで働くことに見出している意義に迫っていく。


情報を集め未来を予測する、楽しかった外資系金融時代

吉岡利代氏:
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ上級プログラムオフィサー。高校、大学を米国と英国で過ごし、帰国後は外資系金融会社の調査部に勤務。その後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所への勤務を経て、2009年にニューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスの創設メンバーとして参画し現在に至る。

KEN(聞き手):
ワンキャリアの若手編集長。28歳。博報堂、ボストンコンサルティンググループ出身。ビジネス経験とは別に、学生時代にボランティア団体を設立・プロボノ支援等のソーシャルセクターでの活動経験を持つ。


KEN:吉岡さんは幼い頃、ルワンダの難民問題の報道を見て、世界を少しでも良くしたいと思ったことがきっかけで、ソーシャルセクター(※1)でのキャリアを意識したそうですね。新卒で入社した外資系金融会社は、ソーシャルセクターとは随分違う世界だと思いますが、当時をどう振り返りますか?

(※1)ソーシャルセクター:環境・貧困などの社会的課題の解決を図るための持続可能な事業や活動を指す。

吉岡:当時はすごく楽しかったです。調査部にいたので、ブルームバーグ(※2)から流れてくる企業がリリースした生まれたてのニュースに触れて世界が動く瞬間をリアルに感じたり、企業の方から業績見通しを伺ったり、経済産業省の方から日本経済をマクロ的にみる視点を得たり、業界の専門家から最新技術について教えていただいたり、大学教授の方から専門家としての見解を伺ったり、工場見学に行ってみたりと、いろいろな角度から最先端の情報を集めて未来を予測する仕事に、とてもやりがいを感じていました。

(※2)ブルームバーグとは、経済・金融情報の配信などを手掛ける、総合情報サービス会社。

KEN:その金融会社を僅か2年で辞めたのは、やはり、ソーシャルセクターで働きたいという願望が大きかったからでしょうか。

吉岡:そのタイミングで次のステップを考えることが、自分にとっても、周りの人たちにとっても、このまま続けるよりよいことではないかと思ったのです。わたしがいた部署では、3年目にもなれば独り立ちし、自分の名前で勝負するチャンスを与えてもらえました。私も、新卒で入社してから2年間、できるだけのことを吸収しようと必死でもがいて、自分の強さや弱さ、適性もだんだんわかってきました。同時期に次のステップを考える同期も少なくありませんでしたね。


「金融業界での経験がなければ、今の自分はない」

KEN:金融業界で得た経験は、吉岡さんにとって大きいですか?

吉岡:この時の経験がなかったら、今の自分がないと思っています。素晴らしい方々との出会いにも恵まれ、それが一生の財産となっていますね。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(※3)では、人権問題を解決するために「調べる・知らせる・世界を変える」という3つのステップを踏んでいるのですが、全ステップにおいて調査部門時代の経験がいきています。この経験がなければ、今、ここに自分はいないと思っています。

(※3)ヒューマン・ライツ・ウォッチとは、1978年にアメリカで設立された国際人権NGO。調査、マスコミやソーシャルメディアへの発信、政策提言などを行う。

KEN:そして、ソーシャルセクターに飛び出したわけですが、変化もかなり大きかったのでは?

吉岡:多分、人生で一番大変な時期でした。家出もしましたし。

KEN:家出?!すごく意外ですが、そこまでしてなぜ?

吉岡:苦労させないように、という思いが強い家庭で育ててもらったので、転職についても猛反対されると思い、相談できませんでした。でも、もう我慢できない、今度こそは本当にソーシャルセクターに行きたい!と思っていた時に、山本敏晴さん(※4)の本で紹介されていた「百術ありといえども、一清にしかず」という言葉に出会ったんです。吉田松陰の言葉といわれているんですが、たくさんの策略をめぐらせるよりも、自分にとって最も大切なものは何かを考え、貫いたほうが良い、という意味なんです。この言葉に背中を押されて、今やらないと一生後悔すると思って、覚悟を決めました。

(※4)山本敏晴:NPO法人宇宙船地球号理事長。元国境なき医師団日本理事。著書に『世界で一番いのちの短い国』『世界と恋するおしごと』『「国際協力」をやってみませんか?』『国際協力師になるために』など


自分の大義に取り組む今、「息をするように働いている」

KEN:現在のヒューマン・ライツ・ウォッチでの仕事と、金融業界での仕事、一番の違いは何ですか?

吉岡:使命感のようなものかもしれません。小学生の頃から、同じ人間として生まれたはずなのに、人間らしく生きられない人たちがいるのはおかしいとずっと思ってきたました。その、自分の大義に取り組めている今は、働くことは生きること、「息するように働いている」という感覚です。

KEN:息するように働いている……そんななかで、特に充実感を感じるのはどんなときでしょうか?

吉岡:例えば、北朝鮮の問題に取り組んでいるときでしょうか。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人権に関する政策提言を行っているのですが、人権分野は目に見えるインパクトをうむまでに時間がかかる長期戦であることが多いです。まだまだ達成できていないことだらけですが、東京オフィスとして取り組んでいることのひとつが、北朝鮮の問題です。「人道に対する罪」という最悪の人権侵害が起きているのですが、問題に世界の注目を集めることが非常に困難な状況でした。そこで、国連や日本を含む各国政府に調査委員会を立ち上げるよう根気強く働きかけたのですが、最近になってようやく、国連で最も力がある安全保障理事会で扱われるまでになりました。


国会議員も巻き込み、戦略的に解決の糸口を見つけた

KEN:すごいですね!相当な努力があってこその成果だと思います。というのも私自身、社会問題への取組んだ経験から、社会課題は「社会が問題を認識していても、実際に解決するのは別次元なほど難しい」と感じます。長年認識されつつも解決されなかった問題に対して、ヒューマン・ライツ・ウォッチが解決への糸口を見つけた。一体、その秘訣はなんだったのですか?

吉岡:北朝鮮の人権問題については、毎年、人権決議案が国連に提出されるのですが、なかなかアクションに結びついていませんでした。そこで、拉致問題に対する強い想いを持っている国会議員の先生方などに、「拉致問題解決のためには、北朝鮮の人権全体の問題として扱われることが必要だ」と働きかけたのです。各国のヒューマン・ライツ・ウォッチの同僚と連携して、政治家や当事者の方、仲間のNGOの人たちなどを繋いで、団体としての強みを発揮できたことも大きいと思います。


なぜ、新卒でソーシャルセクターに飛びこまなかったのか?

KEN:幼い頃から、自分の大義を持っていた吉岡さんが、新卒としてソーシャルな分野での就職を選ばなかったのはなぜですか?

吉岡:ソーシャルセクターで活動するNGO/NPOの多くは、色々なリソースがまだ足りないこともあり、即戦力となる人材を求めています。だとしたら、吸収のチャンスが強く与えられている新卒としての第一歩は、自分の成長のために沢山吸い込める職場を選ぶべきだと考えました。


もう一度、新卒として就職先を選ぶなら「弁護士」「起業」「コンサル」も

KEN:自分の成長のためのベストな選択肢が外資系金融だったと。では、仮に、吉岡さんが今、もう一度新卒として就職先を選ぶとしたらどんな選択をしますか?

吉岡:そうですね……。3つやってみたいことが思い浮かびます。1つ目は、人権という法律の世界で、一人前として戦って行くためのスキルや資格が欲しいと思っています。例えば弁護士のような。2つ目の選択は、起業ですね。

KEN:今も世界経済フォーラムのグローバル・シェイパーズ・コミュニティ(※5)に選出され、起業家コミュニティで活躍されていますよね。

(※5)グローバル・シェイパーズ・コミュニティ:世界経済フォーラム(通称ダボス会議)によって任命される33歳以下のメンバーで構成されるコミュニティ。優れた潜在能力や実績を持ち、社会に貢献する強い意志を持つ者が選出される。

吉岡:今の日本は過渡期にあって、新しい価値観やルールなどをつくろうという機運が高まっていると思うんです。そして、3つ目は、コンサルティング業界です。パブリックセクター(※6)に出向されている方も多いですし、多様な方向に羽ばたける可能性の高さに惹かれます。

(※6)パブリックセクターとは、公的機関のこと。官庁や、地方自治体、独立行政法人など。


ーー後編「ゴールドマン出身・吉岡氏:世界の問題を身近に感じる理由」に続く


WRITING・PHOTO:今井麻希子

吉岡利代:
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ上級プログラムオフィサー。高校、大学を米国と英国で過ごし、帰国後は外資系金融会社の調査部に勤務。その後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所への勤務を経て、2009年にニューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスの創設メンバーとして参画し現在に至る。2011年AERA「日本を立て直す100人」、世界経済フォーラムのグローバル・シェイパーズ・コミュニティに選出

KENのTwitterはこちらから


<外資BIG5特集:記事一覧> 

【1】前Google日本法人名誉会長 村上憲郎氏
・「もう一度、就活をするとしたらどこに入るのか?」誰もが予想しなかった意外な会社とは(前編)
・日本人がグローバル企業でCEOを務めるために必要なたった2つのこととは?(中編)
・今の人工知能は、ターミネーターの一歩手前なのか?人工知能の最先端に迫る!(後編)
【2】マッキンゼー出身、一般社団法人RCF 藤沢烈氏
・「この会社の中で一番難しい仕事がやりたい」新卒でそう言った彼が今でも目の前の仕事に全力でコミットする理由(前編)
・「NPO経営はベンチャーが上場するのと同じくらい難しいと感じる」外資・起業・NPO全てを経験した彼が語る経営の本質(後編)
【3】BCG出身、特定非営利活動法人クロスフィールズ 松島由佳氏
・「BCGは今でも大好きです」そう述べた彼女がそれでもなお、新興国向けNPOを立ち上げた理由に迫る(前編)
・途上国と日本のそれぞれの良さを活かしあって描ける未来もある。「留職」が目指す未来とは?(後編)
【4】ゴールドマン・サックス出身、ヒューマン・ライツ・ウォッチ 吉岡利代氏
・「金融業界での経験がなければ、今の自分はない」彼女が今、ソーシャルで働く意義に迫る(前編)
・「息を吸うように仕事をしている」彼女が世界の問題を身近に感じる理由(後編)
【5】P&G出身、株式会社キャンサースキャン 福吉潤氏
・P&GマーケからハーバードMBAへ。キャンサースキャン福吉氏が今、日本の社会で証明したい「社会への貢献」と「リターン」の両立とは?(前編)
・「世界最強と言われるP&Gマーケティングの限界は存在するのか」という問いへの彼の回答とは?(後編)
【6】5人の対談を終えてKENの対談後記
・賢者が持つ「価値観の源泉」に迫る ー5人の共通点と相違点ー
・現代の就活が抱える3つの課題 ー「学生よ、ジョブローテがある会社には行くな」ー
・KENの回想記 ーソーシャル領域との出会いと、天職の見つけ方ー

※ 外資BIG5特集:特設ページはこちら


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