前編はコチラ:「この会社で一番難しい仕事がやりたい」新卒でそう言った彼が今でも目の前の仕事に全力でコミットする理由(前編)
「外資BIG5特集」の第2弾は、外資系戦略コンサルティングファーム、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、現在東北の復興支援に軸を置く、一般社団法人RCF(※1)代表 藤沢烈氏へのインタビュー。
後編では、外資・起業・NPO全てを経験した藤沢氏だからこそ感じる、経営の本質に迫っていく。
(※1)RCFとは、2011年9月に設立した一般社団法人。情報収集や分析を活かした災害からの復興、および社会課題解決に関する事業などを行う。
ソーシャルセクターはリーダーシップを発揮しやすい場
KEN:私は、日本は、欧米などに比べてソーシャルセクター(※2)に対する理解度や成熟度が低いと感じる反面、最近は日本でも少しずつ優秀な人材がソーシャルセクターに流れはじめている感覚があります。実際の現場ではいかがですか?
(※2)ソーシャルセクターとは、環境・貧困などの社会的課題の解決を図るための持続可能な事業や組織を指す。
藤沢:増えていますよね。人材もそうですが、社会的な取り組みに対しての市場が日本でもぐんぐん成長していますので、それに比例してやりたいと思う人が増えているように感じます。
KEN:人材ということでいえば、グローバルな視点での日本の人材の特徴についてはどうでしょうか?
藤沢:やはりリーダーシップが足りないと感じます。何か提案して自分で出資をするような、ゼロから1をつくり上げる経験値が、日本のような成熟した社会では積みにくいのかもしれません。しかし、日本のソーシャルセクターにおいてはゼロだらけです。リーダーシップを発揮しやすい場が広がっているのではないでしょうか。
一般企業でスキルを磨いてからでないと、NPOで戦力として立ち回ることは難しい
KEN:ここ数年で、ソーシャルセクターで仕事がしたいという学生も以前よりかなり増えたと思います。私の周りにも多いです。新卒の段階で一般社団法人やNPOに飛び込むことについては賛成ですか?
藤沢:僕は反対です。
KEN:私が把握する限りでは、ソーシャルセクターで働く方々は藤沢さんと同じ考えを持たれている方が多いようですが、なぜそう考えるのでしょうか?
藤沢:NPOの世界でやっていくことは、一般企業で利益を出すよりもレベルが1ケタ違う難しさを感じます。というのも、人件費を出すという意味では経済的にも成り立たせながら、かつ従来の企業活動に加えて社会的成果も必要とされます。一般企業でスキルを磨いてからでないと、新卒者がいきなりNPOで即戦力として立ち回るのは本当に難しいと思います。
外資系企業・ベンチャー経営・一般社団法人、それぞれの立場から見た、経営の難しさとは?
KEN:藤沢さんは、外資系企業、コンサルティング会社の起業も経験されて、今一般社団法人をされています。それぞれを経験してきたなかで感じる大きな違いは、どのようなところですか?
藤沢:経営という点では近いですが、性質はまったく異なります。企業は、もともと市場がある領域で経済活動を行ないますよね。ベンチャー経営では、これから伸びていく市場を狙います。一方でRCFのような一般社団法人やNPOは、損なわれた市場や、そもそも存在しない市場と対峙します。そのなかで、行政では解決できない問題に取り組み、意味のある成果を挙げなくてはいけません。
東北の例でも、市場・行政・市民など多くの関係者を巻き込み、それぞれの価値観がぶつかり合うなかで、絶妙なバランスを取る。そして、「寄付金を渡して終了」のような一過性の成果ではなく、まちが自走できるような持続可能な成果を挙げなければなりません。
NPOや一般社団法人が目に見える社会的成果を出し続けることは、ある意味ベンチャー企業が上場することと同じくらいか、もしかするとそれ以上に難易度が高いです。
構造転換まで踏み込まなければ解決できない、巨大な課題に立ち向かう
KEN:ベンチャーが上場することと同じくらいというのは、確かに大変ですね。学生はなかなかイメージしづらいと思うのですが、何か具体例などはありますか?
藤沢:具体的に、東北の産業支援において目指すところは、東北沿岸の水産業の構造転換です。大量に安く売るモデルから、少量を高く売るモデルへの転換を考えています。
現在の東北の水産加工業に携わる人の平均年収は約200万円。これは日本の平均年収よりもかなり低く、魅力的な産業とはいえません。外から人を呼び込むことは難しいでしょう。少なくとも、平均年収300〜400万円には引き上げたい。そのためには、生産性をあげる必要があります。付加価値を上げたうえでどう最終製品をつくり、販路を開拓するかということはもちろん、このほかにも政策提言などやるべきことはたくさんあります。
このような地道な取り組みを積み重ね、東北の水産加工業の平均年収が引き上がることで、人々に安心して水産加工業に携わっていただき、技術を磨いてもらえるようになる。その技術によって、最終的な製品の質やサービスが向上する。その結果、売上が立ち、産業が回復していくという好循環へいかに持っていくかですね。
KEN:それは、どのくらいのスパンでみているのでしょうか?
藤沢:10年くらいですね。高齢化が進む今、これを実現しないことには東北の水産業は衰退してしまいます。ただ、現状の200万円を300〜400万円に引き上げるという転換がなかなか難しく、みんなで悩んでいるところです。ベンチャー企業が上場するくらい難易度が高いことの理由は、そこにあります。
15年後に「震災から20年」というテレビ特集を見たとして、少なくともあのときこうしていればよかったと後悔したくはない
KEN:それを実現できたときが、一旦のRCFとしてのゴールといえそうですか? というのも、企業の場合は会社が生まれたことで社会がどう前向きに変化したかが重要だと思うのですが、NPOなどの場合、社会課題がなくなることがゴールだとすれば、組織が消えていくことがゴールという考えもあります。
藤沢:東北の産業支援に関していえば水産業の構造転換がゴールです。ただ、組織がなくなることがゴールかといえば違う気がしていて。かといって、社会問題の解消を目的としていないということではありません。解決までのリミットを設けて取り組んでいます。
それと同時に課題解決の手法やアプローチが役割を終えても、組織自体は消える必要はないと思っています。商品にプロダクトライフサイクルと呼ばれる寿命があるように、手法にも寿命があるはずなので。ちなみに福島第一原発の廃炉が2050年なので、完全な復興もそれぐらいまではかかると見込んでいます。
KEN:2050年ですか? 気が遠くなりそうですね。
藤沢:あと35年たつと僕は75歳ですから、後期高齢者。それまで自分がやっているかどうかはわからないですが、15年後に「震災から20年」というテレビ特集を見たとして、少なくともあのときこうしていればよかったと後悔したくはないんです。そのためにも、今やれるだけのことはすべてやりたいと思っています。
KEN:組織以外では、藤沢さんご自身が最終的に目指すものはあるのでしょうか。これまでのお話からすると、先のことはあまり考えていませんか?
藤沢:そうですねー。60歳になってこうありたいと思ってそのままなっていたとしたら、すごくつまらない人生だと思うんです。ただ、60歳や70歳になったときも、何か目の前のことにのめり込んでいたいとは思っています。60歳になって、今は想像もしていないようなことを結果的にできていたらいいですね。
毎日がアクションや意思決定の連続。息抜きは「Why」を考えるとき
KEN:なるほど、かっこいいですね。ところで、日々多忙を極める藤沢さんですが、息抜きなどはされていますか?
藤沢:息抜きは大事にしています。僕の場合は毎週土曜日、東北に行かないときは朝から夕方まで図書館で過ごしています。そこで知識を得ることもありますが、本や資料からいろいろなケースを見ながら、この1〜2週間のことを振り返る時間にあてています。それが、息抜きなのかと言われると微妙ですが……(笑)。
KEN:てっきり映画を観るとか音楽を聴くとか、そういう息抜きが出てくるのかと思っていました。振り返りが息抜きになっている……ですか(笑)。
藤沢:普段は分単位でアクションや意思決定をし続ける日々なので、振り返りの時間がなかなか取れません。自分の意思決定がどうだったのか、失敗したのはなぜか、成功したのはなぜか。日常的には「How」ばかり考えているので、図書館で「Why」を考える時間がとても大切なのです。あ、もう1つありました。毎晩娘をお風呂に入れているので、それも息抜きの1つです。
KEN:少しホッとしました(笑)。
シンプルに考えて、テーマを選択肢と選択基準の2つに分ければ意思決定できる
KEN:分単位で意思決定をされているということですが、そのときに心がけていることはありますか? 学生が迷ったときに使えるちょっとしたコツみたいなものがあればぜひ教えてください。
藤沢:シンプルに考えて、テーマを選択肢と選択基準の2つに分ければなんでも決定できると思います。たとえば「どこに飲みに行くか」。あの店は高いし、でもこっちの店はおいしくないしとぶれますよね。だから今日はこの3つから選ぼうと。たとえば(1)2千円以下(2)中華(3)なるべく肉が美味しいところ……選択基準を3つ立てて考えていけば自動的に決まります。迷っている人は、たいてい選択肢と選択基準が行ったり来たりしているんだと思います。
KEN:すごくわかりやすいですね。応用できそうです。
藤沢:とはいえそれは初級編で、本当に難しい意思決定は選択肢自体が見えきらなかったり、選択基準が何かもわからない状況です。そうした場合は8割ぐらい見えた段階で決めてしまうなど、自分なりのさじ加減も必要ですね。
「僕が見るのはむしろボランティア経験ではなく、本業の仕事をどこまで本気でやってきたか」 藤沢氏が一緒に働きたい学生とは
KEN:これを読んだ学生が3年後か5年後、あるいは10年後にRCFさんに参画するとして、彼ら、あるいは彼女らにどういう経験をしてきてほしいと思いますか?
藤沢:ぜひ来てほしいですが、そのための準備はあまりしないでほしいんです。仮にNPOに関心があっても、NPOのことはやらなくていいと思っています。本業をやりながら週末はボランティアをする。もちろんいいです。でも、それが評価基準にはならないですね。僕が見るのはむしろボランティアではなく、本業の仕事をどこまで本気でやってきたか。NPOの分野で仕事を視野に入れているからこそ、ビジネスの現場のことを徹底的にやってほしいと思います。
KEN:藤沢さんが一貫して伝えたいとおしゃっていた、仕事を手段にせず目の前のことに全力で打ち込む、ということですね。
藤沢:それがすべてだと思います。どれだけ実戦で戦ってきたか。その経験の多さ、質。それは聞けばわかりますし、本気でやってきたことならどんどん出てくるはずです。
学生はライバル。若者の変化率は凄まじい
KEN:最後に、学生へのメッセージをお願いします。
藤沢:学生こそ目の前のことに集中している立場ですよね。何かにのめり込む学生を見て、自分もそれくらいのめり込めているかなと振り返る意味でも、学生は僕にとってライバルです。若者の変化率って凄まじくて、伸びるときはめちゃくちゃ伸びる。経験値こそ多少こちらが上回るものの、やっぱりそこは勝てません。そういった意味では、僕はむしろ上の世代よりも若い世代から刺激を受けます。だからメッセージではないのですが、学生に対して「負けないよ」という気持ちはいつも持ち続けていたいですね。
──外資系企業の中でも圧倒的な人気を誇る5つの企業に迫る「外資BIG5特集」。記事一覧はコチラ。
WRITING:開洋美/PHOTO:河森駿
藤沢烈:
一般社団法人 RCF代表理事。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立し、NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災を機に、RCF復興支援チームを設立(現・一般社団法人 RCF)。2012年2月の復興庁設立時から翌年8月まで同庁政策調査菅も務める。総務省地域力創造アドバイザー、文部科学省教育復興支援員。著書に『社会のために働く 未来の仕事とリーダーが生まれる現場』(2015年、講談社)。共著に『東日本大震災 復興が日本を変える―行政、企業、NPOの未来のかたち』(2016年、ぎょうせい)、『ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論』(2013年、朝日新聞出版)、『「統治」を創造する 新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』(2011年、春秋社)。
ブログ:http://retz.seesaa.net/
Twitter:@retz
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