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P&GマーケからハーバードMBAへ。キャンサースキャン福吉氏が今、日本の社会で証明したい「社会への貢献」と「リターン」の両立とは?(前編)

外資系 メーカー マーケティング
2016年4月6日(水) | 31,248 views
sponsored by キャンサースキャン

「外資BIG5特集」の第5弾は、株式会社キャンサースキャン 代表取締役 福吉潤氏へのインタビュー。

前編では、P&GからハーバードMBAを経て、彼が日本の社会において証明したいと願う「社会課題解決と収益事業の両立」というテーマ、そしてプロフェッショナルである彼が見い出す「働く意義」に迫る。

プロフェッショナルとしての基礎を叩き込んだ、P&Gでの7年間 

福吉 潤氏:
大学卒業後、7年間P&Gマーケティング本部に勤務しブランドマネージャーも務める。その後、ハーバードビジネススクールにてMBAを取得。卒業後は、ハーバードビジネススクールの研究員を経て、ハーバード時代の友人と共に株式会社キャンサースキャンを起業。


KEN(聞き手):
ワンキャリアの若手編集長。28歳。博報堂、ボストンコンサルティンググループ出身。ビジネス経験とは別に、学生時代にボランティア団体を設立・プロボノ支援等のソーシャルセクターでの活動経験を持つ。


KEN:福吉さんは、世界最高峰のマーケティング企業、P&Gのマーケティング事業部で7年間キャリアを積まれ、ハーバードビジネススクール(以下HBS)でMBAを取得した後、マーケティングを専門領域とする株式会社キャンサースキャンを創業なさいました。もし、再び新卒をやり直せるとしたら、どの企業を選びますか?


福吉:やっぱりまたP&Gを選ぶと思いますね。プロフェッショナルとしてのスキルも、物事を考える上で必要なフレームワークも、1から全部教えてくれた職場でした。


KEN:それは、例えばどんなことでしょう?


福吉: まず、物事を考える上でのベースとなるフレームワークです。P&Gでは、何をするときにも必ず「目的は何か」「お前はどう思うか」の2つを問われるんですね。その習慣は、経営者となった現在も、物事を判断するうえでとても役立っています。それから、マーケティングと、リーダーシップですね。


KEN:確かにP&Gといえば、マーケティング職が花形というイメージがあります。


福吉:P&Gのマーケティングが面白いのは、対象にしている製品が、人にとって無関心なものだからなんです。


KEN:無関心だから面白い。どういう意味でしょう?


福吉:どうせやるなら高級車であるBMWのマーケティングをしたいって思いません? みなさんが洗剤買うとき、どれを買おうかそれほど悩まないですよね。一方、BMWはもともと趣向性が強く、買う時にも悩む。人にとって無関心な商品ほど、いかにして注目を集めるか?が難しい。どうでもいいものを、いかにどうでもよくないものにするか、これだから面白いです。


KEN:難しいからこそやりがいがある、と。


福吉:たとえば、担当していた洗濯用洗剤。除菌ができることが売りの製品だったのですが、「除菌もできる洗剤です」と宣伝しても、まったく響かなくて、売れなかったんですね。それが「これを使えば、生乾きの嫌な匂いの原因となるばい菌がいなくなります」と表現を変えたら、売り上げが一気に増えました。

何のイノベーションも起こらないといわれていた洗剤業界で、消費者に対するメッセージを変えるだけで、それだけ大きな社会的インパクトが起こせることを実感しました。スキンケアでもマーケティングを担当しましたが、洗剤の方が自分としては面白かったですね。


KEN:そしてもう1つは、リーダーシップを学ばれたと。リーダーシップは、スキルというより、カリスマ性、つまり天性の素質という風に捉えられがちだと思います。リーダーシップは訓練で獲得できるスキルということでしょうか?


福吉:そうです。P&Gでは、Envision(ビジョンを示す)、Energize(達成できると、みんなを元気づけ、組織を活性させる)、Enable(ビジョン達成に対して、一人ひとりが前進できるように手助けする)の3つのEを掲げ、リーダーシップは伸ばすことのできるスキルだと教えられます。P&Gで学んだリーダーシップは、今の組織運営にも活かされています。

働いた分だけ学べることがあったP&G。辞めづらくなるリスクもあった

KEN:そのP&Gには、7年間勤務なさいました。この「7年間」という期間をどう振り返りますか?


福吉:急成長できるスピード感としては、「3年一区切り」という考え方もあると思いますが、P&Gのようなスピード感の早い会社では、いたらいた分だけ、学べるものは大きいと思います。ただし、長くいると、その分、辞めづらくなるリスクが生じてきます。


KEN:辞めづらくなるというリスク…。


福吉:1つは、給料。毎月入ってくるものを断ち切るというのは、額が大きくなるとなおさら、勇気のいることです。更に家族が出来たりすると、挑戦しない理由が増えてしまうんですね。

自分の市場価値をあげて、キャリアの自由度を高める

KEN:私も日系大手・外資大手に勤めていた経験があるのでよく分かります。挑戦しない理由が増えるなかで、結局P&Gを退職し、更にはHBSに進学された理由はなんなのでしょう?


福吉:そもそも、大学時代から「ビジネススクールを出てからがビジネスマンとしてのキャリアのスタート」だと考えていたため、いつかはHBSのMBAを取ろうと決めていました。

そのための修行期間として、短期間でスキルを身につけられるP&Gに入ったんです。P&Gでマーケティングをして4〜6年も経つと、ヘッドハンティングの誘いがよく来るようになるし、世の中のどの製品をみても、マーケティングの視点で見られるようになる。かつ、ハーバードでMBAを取得すれば市場価値は一気に上がります。

すると、次の仕事をみつけるハードルがぐっと下がります。そのフェーズになると、世の中の人たちと競い合うためのキャリアというのはあまり意識する必要がなくなります。やりたいことに打ち込むことができるようになるんです。

HBS卒業生の13%がNPOに就職という事実に感化され、ビジネスとしてソーシャルセクターへの挑戦を決める

KEN:努力・成果を積み重ねてきた結果、独立する準備が出来たということですね。その中で、あえてソーシャルセクターに関心を持ったのはなぜですか?


福吉:HBSでの経験が大きいですね。HBSでは、卒業生の13%がNPOに就職するんですよ。ビジネススキルを磨きに世界から集まってきた人たちが、金儲けのためじゃなくて、社会課題の解決に自分のビジネススキルを活かそうと励む姿を見て、素直に「かっこいいな」と。

自分自身もソーシャルセクターに先駆者として入り、ビジネスマンたちが、セカンド、サードキャリアを考えたときに「あいつみたいな生き方もいいな」と思ってもらえる存在になれたらと考えました。

仕事って、言い換えれば自分のいのちを燃やすことでもありますよね。仕事=人生といっても過言ではないほど、生きている時間のほとんどを仕事に費やすわけですから、どうせなら、社会をよくすることに時間を使いたいと思いました。

あえて株式会社を選んだ理由:「社会貢献」と「金銭的リターン」が両立できることを証明したい

KEN:そして、キャンサースキャン(※1)を創業されたわけですが、福吉さんは、NPOではなく「株式会社」として、つまりビジネスとしてソーシャルセクターに取り組むことを選ばれました。その理由はなんなのでしょう?

(※1)株式会社キャンサースキャン:ソーシャルマーケティング/調査・研究/データ解析を専門とする企業。


福吉:過去の経験からです。日本には、NPOであることを理由に現状維持を良しとしたり、未知のことにチャレンジしようとしない組織もあるという現状を目の当たりしてきました。私は、ソーシャルセクターに優秀な人材を惹きつけるためにも、「株式会社」という形をとることで、ビジネスという観点からアプローチすることが大事だと感じていました。その方が、プロのビジネスマンたちの集う組織が作れると考えたのです。


KEN:入り口をビジネスにすることで、より優秀な人材を惹きつけられると。


福吉:加えて、Social Contribution(社会貢献)とFinancial Return(金銭的リターン)はトレードオフしないということを証明したいという想いもあります。それを、株式会社で、社員には能力にふさわしい給料を支払いながら、実施する。

今いるメンバーの多くも、それこそP&Gなどビジネスの場から来たメンバーが多いのです。ソーシャルをテーマとしたビジネスを成長させること、それをキャリアとして、志として働いているので、うちが明日からNPO化すると話したら、多分ミスマッチを起こして辞めるという人も出てくると思います。


KEN:ではもし、ビジネスか、ソーシャルか。どちらを優先させるかと問われたらどうお答えされますか?


福吉:我々はビジネスをプロフェッショナルとしてやるというのがまず先にあって、そしてその仕事にいのちを燃やすなら、社会貢献になることがいいね、という順番で選択をしています。そうすることで、本当にサステナブル(持続可能)に続けていく形を作ることにチャレンジしています。

「ソーシャルの世界を選べたのは、P&Gで身につけたマーケティングとリーダーシップがあるから」ジョブローテーションで部署を転々とさせられる会社は、真っ先に避ける理由

KEN:就活生から、スペシャリストになるべきか、ジェネラリストになるべきかという質問をよく受けます。福吉さんは、どうお考えですか?


福吉:今答えるなら、間違いなくスペシャリストですね。ある種のスキルがあってからこそ、キャリアの自由度が増してくる。ファンクショナル(機能的)なスキルがあるからこそ、どの業界でも役立つ人材になれるんです。想い×スキルで社会へのインパクトが最大化されると考えるならば、ソーシャルのフィールドでビジネスマンが貢献するには、専門性がなくては成立しない。私がソーシャルの世界を選べたのは、P&Gで身につけたマーケティングとリーダーシップのバックボーンがあるからだと思います。


KEN:ファンクション(機能)で見るという視点は、新鮮ですね。


福吉:でも、ファンクションの視点がなければ、P&Gなんて受けようと思わないんじゃないですか。洗剤のマーケティングをしたい学生なんていないと思うんですよ。マーケティングの一流のスキルが身につく会社だからこそ、P&Gを選ぶのであって。その会社の中でしか通用しないジェネラリストを育成するために、ジョブローテーションで部署を転々とさせられる会社は、真っ先に避けますね。

日本の若手ビジネスマンの30〜40%が割と普通に「次のキャリアはソーシャル」と考えるぐらいまでにしたい

KEN:株式会社は事業価値・時価総額を大きくすることが一義的な会社の目標だという論もあります。キャンサースキャンの場合、必ずしも大きくなることがゴールではないかも知れませんが、この会社がより大きく成長した先の未来の社会を、どのようにイメージしていますか?


福吉:ソーシャルが、キャリアの選択肢として当たり前に位置付けられているような社会になればと思います。日本の若手ビジネスマンの30〜40%が割と普通に「次のキャリアはソーシャル」と考えるぐらいまでしたいですね。

HBSの13%がNPOを目指すように、日本でもマッキンゼーやGoogle、P&Gといった企業の出身者の13%が、次の自分のプロフェッショナル・キャリアの選択肢としてソーシャルを選ぶというような。


KEN:13%という数字は、日本の現状を考えると、あまりに大きな数字だという印象を受けます。


福吉:聞いてみると意外と、日本でも「ソーシャルに行きたい」という人は、例えば東大生にも13%ぐらいならいると思うんですよ。問題は、それがどの層の13%かということです。

日本の場合、ソーシャルに興味があるという人達は、「人のいい」子であることが多い。ディスカッションでも波風をたてるのを恐れて意見を言わない、対立を避けるために自分の意見を下げてしまう。そういった「人のいい子」よりは、少しあくが強くて強引でも、外資に行くようなスキルと情熱を持った人たちの次のキャリアの選択として、ソーシャルを選ぶ人が13%くらいいる社会になるといいと思います。


KEN:なるほど。では、その現状と理想のギャップが仮に大きいとすれば、その原因はなんだとお考えですか?


福吉:日本にはまだ、ロールモデルが少ないことが原因だと思います。NPOならともかく、株式会社としてソーシャルに関わっているところは、ほとんどないわけですから。仕事を通じて私がしたいことは、ソーシャルセクターに、力のある人をどんどん送るということです。

ハーバードには「自分たちが世界を変える」と本気で思う人たちが集う

KEN:「力のある人」の定義もすごく難しいと思うのですが、グローバルで活躍されてきた経験を通じて、世界と比較して、日本の人材のレベルをどう評価されていますか。


福吉:ハーバードには「自分たちが世界を変える」と本気で思っている人たちが、世界中からたくさん集まってきます。日本のように安定した社会にいるからこそ、自分のキャリアのためにビジネススキルをあげたい、というようなことを考えられる、それはある意味幸せなことだと思いました。一方で、仕事によって社会にどのような価値を与えていけるか、社会がどう前進するかを考えていく夢や責任感を持ったら、より働きがいがあるだろうとも思います。


KEN:マインドの面以外に、スキルの面からみるといかがでしょう?


福吉:ハーバードにはいろいろな国から、考え方も価値観のバラバラな人たちが集まりますから、伝えることがとにかく難しい。伝わったことが全てという世界。それに、社会的バックグラウンドがバラバラなので、ケーススタディをやっても、100人全員が違う答えを持つ。お互い捉え方があまりに違っていて、話が通じないのが普通です。日本にいると「それって言い方の問題であって、本質は正しいからよし」ってなるかもしれないけれど、世界の人たちと渡り合うには、この部分が問題になります。

100人全員が違う答えを持つため、正解はない。そもそも、自分の考えを持たないと話にならないですね。

正解のない世界の中で、自分の答えを持ち他人と出会う体験が、日本はまだ圧倒的に少ない

KEN:答え探しをする性質は、日本と海外の教育の違いから生じるものだと、Google名誉会長の村上さんもおっしゃっていました。


福吉:おっしゃる通り、日本と海外の教育の違いだと思います。実際、HBSでは、ケーススタディを題材に課題に取り組むのですが、全員でディスカッションしても、授業の時間内で結論は出ないんですね。

正解を見て「答え合わせ」するのに慣れてしまっている日本人には、答えが示されないことへのストレスもあります。正解のない世界の中で、自分の答えを持ち、他人と出会う体験が、日本はまだ圧倒的に少ないのでしょう。


KEN:それをHBSで感じられたということは、P&G時代には感じなかった、ということでしょうか。少し意外な印象を受けます。


福吉:外資といえども、組織にいる限りは、上の人がいいという「正解」を探し続けていたような気がします。P&Gで、ほぼ最速のスピードで課長にまでなったのですが、実は、課長になった途端に、成績は最低になり、ビジネスをこかし続けてしまったんです。それまではずっと、組織の中で、上の人間がやりたいことを嗅ぎ取って、そつなくこなせばよかったからうまくいきました。上の人が求めているものを感じ取って、それに反応していくだけの、「器用なだけの人間」になってしまったと後悔しました。

挫折だらけからの挑戦

KEN:ここまでの話を聞いて、福吉さんの人生は成功の連続で、非の打ちどころがないような印象を受けます。もう少し我々が親近感を感じられるエピソードはないのでしょうか……(笑)。


福吉:いや、全く逆で、私の人生は挫折の連続ですよ。大学でSFC(慶応藤沢湘南キャンパス)にいきたくって、一浪して、さらにまた落ちて。ハーバードも3回チャレンジしてようやく受かっています。


KEN:とても意外です。これまでの話を伺って、福吉さんから「意志の力」のようなものを感じます。働きながらの試験勉強は壮絶だったと思いますし、挫折しそうになったことはないですか?


福吉:そうですね。でも、周りの人に「自分はHBSに行く」と宣言してしまっていたので、今更、それを引き下げるわけにはいかないというプレッシャー感じつつ仕事をしていました。


KEN:諦めない、不屈の精神ですね


──後編「『世界最強と言われるP&Gマーケティングの限界は存在するのか』という問いへの彼の回答とは?」に続く


※ キャンサースキャンではフルタイムインターン(長期インターン)を随時募集しています。現在7名のインターン生が活躍中です。ご興味のある方は以下のアドレスまでご連絡ください。

info@cancerscan.jp

沢山のご応募をお待ちしております。

【WRITING:今井麻希子/PHOTO:河森駿】


福吉潤:
株式会社キャンサースキャン代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部卒。7年間P&Gマーケティング本部に勤務し、ブランドマネージャーも務めた後、ハーバードビジネススクールにてソーシャルマーケティングを学び、MBAを取得。卒業後、ハーバードビジネススクールの研究員を経て、ハーバード時代の友人と共に株式会社キャンサースキャンを起業。現在、厚生労働省や東京都ほか地方自治体などと共にパブリックヘルスマーケティング事業を展開。

北野唯我(KEN)のTwitterはこちらから


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