※去年話題になった外資BIG5特集、特に人気だった村上さんの記事を本日、3記事まとめて再掲します。
「狭き門」といわれる、外資系企業。その中でも圧倒的な人気を誇る5つの企業に迫る「外資BIG5特集」。
第1弾は特別対談と称して、前Google日本法人名誉会長 村上憲郎氏に対して、ボストン コンサルティング グループ出身の編集長KENが独占インタビューを試みた。最後となる後編では、村上氏の専門テーマの1つである人工知能の最先端と未来について、村上氏の見解に迫っていく。
今後の人工知能を語る上で欠かせない、「受動意識仮説」とは?
KEN:これまでのお話では、村上さん流の「生き方」のようなことを伺ってきました。唐突ですが、村上さんは、死への恐れはないですか?
村上:ないですね。Googleでは最近「マインドフルネス」というのを取り入れているけれどね。実家は臨済宗妙心寺派の檀家だから禅なのですが、私は原始仏教徒を自称しているんです。マインドフルネスでやっているのは、原始仏教のヴィパッサナー瞑想。ヴィパッサナー瞑想をすると「私というものは存在しない」ということに気づかされるわけ。それもまた、人工知能とつながっているんです。
KEN:マインドフルネスや瞑想と、人工知能が?
村上:人工知能を研究すると「意識とは何か」という問いに突き当たります。これについて、慶應義塾大学教授の前野隆司先生(※1)は「受動意識仮説」(※2)というのを提唱しています。
例えば、手を動かそうという時、筋肉に動けという指示を出す脳細胞があるよね。英語では、1つの脳細胞が働くことを「fire」、日本語だと「発火する」と言います。「手を動かすために筋肉を動かす」脳細胞と、「手を動かそうと思った」脳細胞。この2つのうち、どちらが先に発火すると思う?
(※1)前野隆司 氏:慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか-「私」の謎を解く受動意識化説』(筑摩書房)『脳は記憶を消したがる』(フォレスト出版)など
(※2)受動意識仮説:脳科学分野の学説。判断などという意識は、脳が作り出した受動的反応をじただ自覚しているという説。
KEN:「筋肉を動かす脳細胞が先」でしょうか。
村上:そう。「思ったから動く」のではないんだよ。「動かす」という脳細胞が先に発火して、その後に、「動かそうと思った」という「意識」がついてくる。つまり、「僕がそうしたいと思ったから、そういう行為が起こった」というような認識は、真っ赤な嘘なんです。脳のいろんなところが、勝手にいろんなことをやって、最後に<私>というのが「観測しているだけ」。これが、受動意識仮説の考え方です。
KEN:「行動」を「観察している存在」としての意識。たしかに、ヴィパッサナー瞑想でいわれている考え方ですね。
話しかけると自動反応を返す「Siri」と人工知能は、全く別次元の話
村上:人工知能の研究では「自己意識」が人間の知能のセンターにあり、それがそれぞれの行動をコントロールしていると考えられてきたけれど、実はそれは違う。
意識というのは、最後に確認しているだけなんです。今は皆さん、人工知能は、知的作業を人間のかわりにしてくれるものだと思っているでしょう? 人工知能というと、例えば Siri のように、話しかけると自動反応を返したり、人間の知的作業を効率性において凌駕するといったことが考えられています。けれど本当の人工知能というのは、それとは次元が違う話なんですね。
KEN:さらに、その先があると。
村上:先日、人工知能の父といわれるマービン・ミンスキー(Marvin Minsky)さん(※3)がお亡くなりになりましたが、彼が本当にやりたかったのは「自己意識」についての研究でした。だから彼は、「Society of Mind:心の社会」という概念をその著書で提唱し、追求していたんだよね。
この本は慶應義塾大学の塾長をなされた安西祐一郎先生がまだ若かった頃に訳されていますが、ミンスキーは、心というのはエージェント、つまり小人の集まりだといっています。
(※3)マービン・ミンスキー(Marvin Minsky:米国のコンピューター科学者・認知科学者。マサチューセッツ工科大学の人工知能研究所の創設者の一人。
ターミネーターの一歩手前? Society of Mind を実現するには100年かかると読む
KEN:そういった面白い考えがあるのですね。一方、現在も人工知能が社会に及ぼす影響は大いに注目されています。先日のダボス会議でも、人工知能を持った戦闘ロボットのことが話題になりました。
村上:「ターミネータの一歩手前じゃないか」と懸念されていますね。確かに、アメリカ国防総省が戦略的に戦闘ロボットの開発に圧倒的な予算を出し続けているわけだから、そこに懸念があるのはわかります。ただ、人工知能をやってきた人間からすると、それは買いかぶりだと思いますね。今回の第3次ブームの人工知能ではまだ、「自立した自己」や「自己意識の誕生」というのはまったくいわれていません。
KEN:でも、いつかはそこに辿り着くと。
村上: いずれは行くでしょうね。マービン・ミンスキーに1980年代に会った時に「人工知能の研究は、あと100年は楽しめるぞ」と言われました。つまり、彼はすでに Society of Mind という発想を持っているけれど、それをコンピュータ上で実現するには、100年くらいかかると考えていたわけですね。
好きなことを突き進め
KEN:村上さんは、人工知能の話が本当にお好きなのですね。
村上:だから最初に言った、人工知能の3社(プリファードインフラストラクチャ、メタップス、UBIC)のいずれかに入れというわけです。ママは知らないだろうけれどね。
KEN:どこまでも、好奇心を追求していく。まさに村上さんの座右の銘として伺った言葉「我等いつも新鮮な旅人 遠くまで行くんだ!」ですね。今回はお忙しいところ、どうもありがとうございました。
ーー外資系企業の中でも圧倒的な人気を誇る5つの企業に迫る「外資BIG5特集」。記事一覧はコチラ。
WRITING:今井麻希子/PHOTO:河森駿
村上憲郎:
1947年大分県佐伯市生まれ。1970年京都大学工学部卒業、日立電子に入社し、1978年に日本DECに転社。1986年から5年間米国本社勤務、帰国後1992年に同社取締役に就任。1994年米インフォミックス副社長兼日本法人社長。1998年ノーザンテレコム(ノーテルネットワーク)ジャパン社長。2001年にドーセントジャパンを設立し社長に就任。2003年より米Google副社長兼Google日本法人社長に就任、2009年より2010年までGoogle名誉会長を務め、2011年に株式会社村上憲郎事務所を設立。現在は株式会社エナリス代表取締役社長の他、幾つかの大学で教鞭をとる。
<外資BIG5特集:記事一覧>
【1】前Google日本法人名誉会長 村上憲郎氏
・「もう一度、就活をするとしたらどこに入るのか?」誰もが予想しなかった意外な会社とは(前編)
・日本人がグローバル企業でCEOを務めるために必要なたった2つのこととは?(中編)
・今の人工知能は、ターミネーターの一歩手前なのか?人工知能の最先端に迫る!(後編)
【2】マッキンゼー出身、一般社団法人RCF 藤沢烈氏
・「この会社の中で一番難しい仕事がやりたい」新卒でそう言った彼が今でも目の前の仕事に全力でコミットする理由(前編)
・「NPO経営はベンチャーが上場するのと同じくらい難しいと感じる」外資・起業・NPO全てを経験した彼が語る経営の本質(後編)
【3】BCG出身、特定非営利活動法人クロスフィールズ 松島由佳氏
・「BCGは今でも大好きです」そう述べた彼女がそれでもなお、新興国向けNPOを立ち上げた理由に迫る(前編)
・途上国と日本のそれぞれの良さを活かしあって描ける未来もある。「留職」が目指す未来とは?(後編)
【4】ゴールドマン・サックス出身、ヒューマン・ライツ・ウォッチ 吉岡利代氏
・「金融業界での経験がなければ、今の自分はない」彼女が今、ソーシャルで働く意義に迫る(前編)
・「息を吸うように仕事をしている」彼女が世界の問題を身近に感じる理由(後編)
【5】P&G出身、株式会社キャンサースキャン 福吉潤氏
・P&GマーケからハーバードMBAへ。キャンサースキャン福吉氏が今、日本の社会で証明したい「社会への貢献」と「リターン」の両立とは?(前編)
・「世界最強と言われるP&Gマーケティングの限界は存在するのか」という問いへの彼の回答とは?(後編)
【6】5人の対談を終えてKENの対談後記
・賢者が持つ「価値観の源泉」に迫る ー5人の共通点と相違点ー
・現代の就活が抱える3つの課題 ー「学生よ、ジョブローテがある会社には行くな」ー
・KENの回想記 ーソーシャル領域との出会いと、天職の見つけ方ー
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