前編はコチラ:ゴールドマン出身・吉岡氏:「金融業界での経験がなければ、今の自分はない」彼女が今、ソーシャルで働く意義に迫る(前編)
「外資BIG5特集」の第4弾は、世界的人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスの創設メンバーとしてキャリアをひらいた吉岡利代氏へのインタビュー。
後編では、「息を吸うように仕事をしている」と語った吉岡氏が感じる充実感の正体に迫っていく。
日本のソーシャルセクターがいい仕事をするには、社会の成熟度が足りない
KEN:アメリカのハーバード大学の卒業生のうち、13%はソーシャルセクターに進むといわれています。NPO法人の給与水準も高く、就職先として人気が高いところも多いという背景があります。一方、日本では「ソーシャルのことをしているのだから給与は低くなくてはならない」という風潮があります。
吉岡:難しいですよね。どの業界でも、いい仕事をするためにはいい環境におかれなくてはならない。環境というのは、報酬もそうだと思いますが、社会の成熟度というか。社会のなかに課題意識がどれだけ共有されているかによって影響されるところも大きいと感じます。
KEN:吉岡さんは、そういった社会のフェーズの変化をどのように捉えていますか?
吉岡:まず、人権問題を世界からなくすことが大目標なのですが、ヒューマン・ライツ・ウォッチという団体としては、グローバル、東京オフィスとでフェーズの違いがあります。
KEN:1978年に設立された本体組織と、2009年設立の東京オフィス。置かれた環境も違いますね。
吉岡:東京オフィスは、アジア初の事務所として立ち上げた設立当初は知名度も低く、政府とのアポイントメント1つを取るのも大変でした。それが徐々に、活動が理解されるようになりました。今では、政府関係者、メディアの方、国会議員なども含め、多くの方からアプローチしていただけるようになりました。インターンを希望する学生にも恵まれています。
KEN:それはすごい変化ですね。
世界の人権問題が「自分ごと」になっていない日本人
吉岡:それでも欧米と比べて日本は、メディアで世界の人権問題が取り上げられる機会もまだ少ないです。国際的な人権問題がメディアの一面に掲載されるほどの影響力を持たなくては、ミッションは達成できないと思いますし、日本人一人ひとりにとって人権問題が「自分ごと」に感じられるようにならないとその距離は縮まりません。外交で優先的に取り上げられるようになるためには、国民の意識が変わり、人権問題に熱心に取り組む国会議員が選ばれるような社会になることが必要ではないでしょうか。
KEN:同意です。私もアメリカ・ドイツへの留学をしていた時に感じた欧米と日本の違いに、「社会問題に対する人々の身近さ」があります。欧米では多くの人が普通に移民問題について議論をしたりします。一方、日本ではこういうテーマを話しだすと、なんだか冷たい目で見られる。このギャップが一般的なものだとしたら、なぜ日本の社会では社会問題、あるいは人権問題への関心が低いのでしょうか?
吉岡:少なくとも戦後70年間は平和な状況にあったことも大きいと思います。また、島国という地理的理由からも、世界で起きていることに当事者意識を持ちにくいのかもしれませんね。
ネットベンチャーの若手実業家からも、支援をいただけるようになってきた
KEN:日本社会のなかで、人権問題への関心を更に高め、活動を支持する人を増やすことが、次のフェーズだと。
吉岡:はい。お陰様で、団体を支援してくださる方の層も多様になってきました。最近は若手の起業家の方にも多くご支援をいただいています。いろいろな業界を巻き込み、国際人権問題を浸透させて一緒に解決していきたいですね。
一流の社会人=社会貢献活動もしている、という時代になってほしい
KEN:よくいわれる「ノブレス・オブリージュ」(※1)という考え方が少しずつ浸透してきているのでしょうか。
(※1)ノブレス・オブリージュ(仏:noblesse oblige)とは、財産・権力・社会的地位の保持には責任が伴うことを意味する。転じて、富裕層、有名人、権力者が社会の規範となるように振舞うべきという社会的責任に関して用いられる言葉。
吉岡:欧米をはじめとする国々では、社会貢献活動をすることは、一流の社会人であることの一部だという意識があります。誰でも、どんな立場からでも、お金・スキル・時間の提供などさまざまな形で、それぞれが自分のできる範囲で社会に貢献していけたらといいのではないでしょうか。
日本人が得意とするコミュティ型のリーダーシップが必要とされる時代
KEN:東日本大震災を体験して、社会に貢献したいという意識が日本人の中に高まったのではないかと感じています。グローバル社会のなかで、日本人はどのように貢献していけるでしょう?
吉岡:これからの時代に求められるリーダーシップの形が変わってきているという話を最近よく聞きます。一人の強力なリーダーが引っ張るだけではなく、みんなで一緒にやっていくコミュニティ型のリーダーシップがより必要とされている気がします。その場の空気を読んで、参加者の強みを引き出して、かけあわせていくといった日本人が得意な性質を活かして貢献できるところは大きいと思います。
KEN:勇気付けられますね。
未来のことを妄想するのが楽しい
KEN:ところで、吉岡さんも、悩むことはありますか?
吉岡:もちろんあります。一人で悶々と抱え込んでしまうタイプなんですよ。悩んだり行き詰まったときは、身体を動かしたり、新しい場所に行ったり、新しいものを食べたりして息抜きをします。本を読むのも好きです。
KEN:就活生に進める本として、川村元気さんの『世界から猫が消えたなら』をピックアップされていますが……。
吉岡:人生を考える面白い切り口に触れて、リフレッシュするのにいいかなと思って選びました。
KEN:いろいろな考え方に触れることがお好きなんですね。
吉岡: そうですね……。大きい話をすることが無駄に好きなので「日本の社会はどうなるんだろう」とか、未来のことを妄想するのは楽しいですね。
KEN:妄想ですね。それなら自分にもできそうです(笑)。
職業選択や学ぶ自由があるのは、平和な社会があるから
KEN:最後に、学生へのメッセージをお願いします。
吉岡:ソーシャルの業界は、外から見ると入るのも続けていくのも大変そうに見えるかもしれないけれど、一度中に入ってしまえば大丈夫です。ソーシャルネットワークの時代、どこかで思わぬつながりがあることも増えていると思うので、自分が納得いくスキルや経験を身につけたら、あんまり深く悩まずに飛び込んでみるのもいいと思います。このように職業選択の自由や学ぶ自由があるのは、平和な社会があるから。それは世界的には珍しく、ありがたいことであると実感し、肩の力を抜いて頑張ってほしいですね。
KEN:吉岡さん自身が、人生を通じて最終的に目指しているものとは?
吉岡: そうですね……。ひとつでも笑顔を増やしていけたらなと、思いますね。
ーー外資系企業の中でも圧倒的な人気を誇る5つの企業に迫る「外資BIG5特集」。記事一覧はコチラ。
WRITING・PHOTO:今井麻希子
吉岡利代:
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ上級プログラムオフィサー。高校、大学を米国と英国で過ごし、帰国後は外資系金融会社の調査部に勤務。その後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所への勤務を経て、2009年にニューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスの創設メンバーとして参画し現在に至る。2011年AERA「日本を立て直す100人」、世界経済フォーラムのグローバル・シェイパーズ・コミュニティーに選出。
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【4】ゴールドマン・サックス出身、ヒューマン・ライツ・ウォッチ 吉岡利代氏
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