前編はコチラ:「BCGは今でも大好きです」そう述べた彼女がそれでもなお、新興国向けNPOを立ち上げた真の理由に迫る(前編)
「外資BIG5特集」の第3弾は、NPO法人クロスフィールズ共同創業者・副代表である、松島由佳氏へのインタビュー。
後編では、彼女がクロスフィールズにて取り組んできた「留職プログラム」の目指す未来、グローバルな環境を経験している彼女が感じた「日本人の強み」と「欧米と日本の差」に迫る。
今の自分を「イマイチ」と感じるなら、環境を変えてみて
KEN:東大、コンサル、そして若手起業家。松島さんっていかにも、ザ・スーパーウーマンという感じがします。
松島:そんなことないですよ。BCGに入社して、最初のプロジェクトなんて、エクセルをあまり使ったことがない私が、手計算で数字を紙にまとめて報告したら、上司に呆れられて…。深夜の2時から、やり直したこともありました。自分の不甲斐なさから、情けない思いをしたこともたくさんあります。
KEN:なんというか、ある意味励まされるエピソードですね(笑)。
松島:エクセルは、入社試験には出ませんでしたしね(笑)。
KEN:確かに(笑)。日本人には、自己評価を高く持てない人たちが多いと思うんです。そういう人たちに対して、松島さんは、どんなアドバイスをしますか?
松島:違う環境に身を置いてみるといいのではないかと思います。そうすることで、それまで知らなかった自分を再発見して「もしかしたら、自分にももっとできることがあるかもしれない」と考えるきっかけになるのではないかと思うんです。留職も、そういった側面があると思います。
BCGとNPOで働くことの最大の違いは、自分の内面に目を向けざるを得なくなったこと
KEN:日本の企業で身につけたプロフェッショナルスキルを、全く違う環境で役立てる。そうすることで、自分のモチベーションが上がったり、新しい価値を発見できる、ということですね。学生も学生なりに、環境を変えてみるというチャレンジはできそうです。松島さん自身は、コンサルからNPOへと仕事の環境を変えて、どんなことに気づきましたか?
松島:自分の内面に目を向けざるを得なくなったことが、根本的には大きいです。今は、本当に自分自身の考えを突き詰め、人間関係も深めないとやっていけないなと。物をみる視点が変わりました。
日本人のビジネスパーソンが得意とする「仕組み化」が現地のスタートアップ企業でも役に立つ
KEN:留職という事業を通じて、人の出会いや、成長する姿をたくさん見てきていると思います。派遣した人、受け入れた団体、双方にとってのWin-Winを感じるのはどんな時ですか?
松島:カンボジアに、これまで2回、留職プログラムを受け入れてくれたスタートアップ企業があります。パッショネート(情熱的)な男性が創った創業5年目の小さな会社で、電気の不足している農村地域の家庭に、ソーラーパネルを売る社会的企業で、日本のITエンジニアに留職いただき、販売管理システムを、作っていただきました。これにより、顧客の売り上げ管理やそれをレポートするための報告資料作りなど、時間がかかる仕事が効率化されました。その結果、団体の経営者の方から、自分がリーダーとしてやるべき職員のマネジメントなどに時間を使えるようになったと、本当に感謝されました。
KEN:日本のビジネスパーソンが得意とする「仕組み化」がスタートアップ企業でとても役にたったと。
松島:留職した日本の方も、自分のITのスキルが経営課題の解決に役立つことを直に感じたことに大きな刺激を受け、これまで担当してきたシステム開発以外のことにも視野が広がり、自分の仕事の影響を全方位的に考えるようになったそうです。留職後には子会社へと出向して、業務の幅を広げていったと伺いました。社内にもプラスの影響がでているそうです。
KEN:派遣した企業も含め、Win-Win-Winの関係ですね。企業で長く働いていると、どうしても、自分が何のために働いているのかを見失いがちになると思いますが、留職で、環境を変えてみたことで、働く意味を再確認できたということですね。
日本人の強みである「ディシプリン」:世界の課題解決の現場で活かす
松島:日本人の底力は、一度ゴールを設定したら、なんとしてでもやりきる力や、高いディシプリン(discipline:規律を守るまじめさ)があります。その特性が、世界の課題解決の現場に貢献するところは大きいと思います。
KEN:日本人の特性が、世界の課題解決に求められている。日本人に勇気を与える話ですね。
松島:最近クロスフィールズでは、「自分」「仕事」「社会」という言葉をよく使っています。自分の仕事って、会社のためでもあるけれど、本当はその先にお客さんや、彼らを取り巻く地域や世界が広がっていますよね。留職して小さな会社で働くことで、仕事の先にどんなお客さんがいて、どんな社会が広がっているのかを想像する力が身につく。そうして、自分と、仕事と、社会の関係が近づいていくんですね。
海外のNPOにはハーバードMBA卒など、優秀な人材が活躍する流れがある
KEN:グローバル企業で働いた経験から、日本の人材をどう評価しますか?
松島:BCG時代にアジアパシフィック地域全体の研修に参加した際に、英語のレベルやプレゼンスが、ほかの国の同期と比較して低いと、危機感をとても感じました。英語力、高い視点と思考力、自分の意見をしっかり持って発信する力。自分も、まだまだ磨かなきゃと思います。それに、留職で派遣する先は、その国でも活躍している団体も多いので、中にはハーバードでMBAをとったような優秀な人たちもいて、そのレベルの高さに刺激を受けるという声も聞きます。
KEN:日本人は、遅れを取っているのでしょうか。
松島:自分で決めるのは苦手だけど決めたらやりきる力や、諦めない力は、一般的に日本人は高いと思いますね。それから、日本人独特の、人当たりの良さ。社交的というわけではないけれど、まじめさ、人の良さが評価されて、日本人っていいよねと、現地の人たちと仲良くなれるのは、強みと言えるかもしれません。
進んでいると言われる米国のNPO業界でも、まだ職員の7割が女性。働く環境としてもまだまだ発展途上の段階
KEN:私自身も、かつてボランティア団体を立ち上げた経験や、BCGでもプロボノケース(※1)をやった経験から感じるのですが、日本ではまだ、ソーシャル領域に優秀な人材が流れにくいですよね。
(※1)プロボノケースとは、社会人が自らの専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動のプロジェクトのこと。
松島:今はまだ、NPOの存在が社会の中では十分に認められておらず、人材も資金も集まりづらく、給与水準も十分とはいえません。社会のために役立ちたいという価値観で仕事をする人ももっと認められ、企業や政府からもNPOの価値が評価されるようになればいいですよね。
KEN:アメリカでは、ハーバードビジネススクールを卒業するような優秀な人たちの間でも、ソーシャルな分野で働く希望が高い。これは、それだけ欧米社会は進んでいるということでしょうか。
松島:確かに、欧米のNPO業界は進んでいると言われていますが、たとえば米国でもまだ職員の7割が女性、つまり、給与水準が十分でないから、なかなか男性が働くには厳しいともまだ言われています。少しずつ変わってきているとは言われていますが、NPO業界への関心をよりよい方向へ変えていきたいと思いますね。
成功者を賞賛するのに加え、失敗も賞賛する文化を育てたい
KEN:なぜ、欧米と日本の差が生まれているのか? ある時、友人とディスカッションして、アメリカは賞賛の文化、日本は成功したひとを妬む文化がある。同じ資本主義でも、文化の仕組みが違う。それが原因ではないかという話が出ました。
松島:成功者を賞賛するのも大事ですが、失敗も賞賛する文化が、欧米にはありますね。日本でもNPOやっていると、成功しているうちは注目してもらえるけれど、その分、失敗したら一気に叩かれるんだろうなと感じる怖さもあります。日本のそういう風土が、失敗や挑戦を恐れる人を増やしているのかもしれませんよね。
数年前は今よりさらにNPOで働くという選択肢が社会に示されていなかった
KEN:数年前は今よりさらにNPOで働くという選択肢が社会に示されていなかったですからね。
松島:キャリアには、目標を定めてそれに向かってひたすら突き進む「山登り型」と、状況に合わせてその場その場で決断していく「川下り型」があると言われています。私は後者で、柔軟に、直感を信じて決めていくところがあったと思います。
KEN:何か目標を持って、それに突き進んでいく、という感じではなかったのですね。
松島:ただ、起業をしてからは、「山登り型」も大事だと思うようになりました。ぶれずに目標に向かえっていくためにも、自分軸を持っていることは大切です。
KEN:松島さんは最終的に、人生にどんなことを求めていますか? どのような社会を実現したいですか?
松島:留職に込めた想いでもあるのですが、「社会の為に自分の力をどう使えるか」を考える人たちを、NPOだけでなく企業などの中にももっと増やしていきたいです。社会課題に取り組む人たちの中には、人的リソースや資金も十分に集まらない状況の中だとしても、志高くチャンレンジしている人たちがたくさんいます。そういうNPO、ソーシャルセクターの人たちを応援したいし、その人たちにしかるべきリソースがもっと集まり、課題解決がもっと進むような、そんな社会にしたいと思っています。
KEN:想いに従って生きる人たちが増える。そんな社会ですね。
学生インターンのキラキラと情熱を持つ姿が、組織に与えるプラスの影響はたくさんある
KEN:少ないリソースで勝負しているソーシャルセクターでは、新卒を雇うのは難しいと言われています。
松島:まだ今は、クロスフィールズでは新卒を採用できる力が十分でなく、採用できていません。今いる社員も、それぞれ新卒ではビジネス経験を積んでいて、ある程度自立して仕事を動かしていける人がほとんどです。
KEN:今後、新卒を採用する計画はありますか?
松島:受け入れるだけの能力を自分たちがもてたら、そうしたいですね。学生インターン生を見ていると、彼らのキラキラと情熱を持つ姿が、組織に与えるプラスの影響はたくさんあると感じます。若い人たちがいる前では、メンバーもみんなその人を応援しようという気持ちが強まったり、全体としても、みんなでよくしていこうという意識が芽生えたり。組織へのプラスの影響はきっと大きいと思いますね。
KEN:NPO業界を目指す学生には優秀な人が多いと聞きます。そういう人たちも、日本ではやはり、松島さんのように、大手のコンサルといった、即戦力のつく職場で鍛えることがオススメなのでしょうか。
松島:ビジネス経験やスキルを伸ばす意味ではそれもひとつだと思います。あとは、インターン経験を積むことも、とてもいいと思います。
30代になっても、40代50代になっても悩み続ける中、見つけて欲しいこと
KEN:もし、この記事の読者が3〜5年後にクロスフィールズに就職したいとしたら、どんな経験をしてきて欲しいですか?
松島:まずは、エクセルのスキルをしっかりと…というのは冗談として(笑)。自分軸を見つけておいて欲しいですね。それって実は、30代になっても、40代50代になっても悩み続けることなのですが、「自分軸の初期版」みたいなものでいいから、持っていて欲しい。「こういう社会にしたい」といった想いを持った人を求めています。
KEN:最後に、読者に一言、お願いします。
松島:クロスフィールズでは、インターンを募集しています。元気の良い方、是非いらしてください!
※ クロスフィールズのインターン募集情報は、クロスフィールズHP:採用情報からご確認ください。
ーー外資系企業の中でも圧倒的な人気を誇る5つの企業に迫る「外資BIG5特集」。記事一覧はコチラ。
WRITING:今井麻希子/PHOTO:河森駿
松島由佳:
NPO法人クロスフィールズ共同創業者・副代表。東京大学在学中より、カンボジアの児童買春問題の解決を目指すNPOで現地視察型のプログラム開発などに従事。卒業後はボストン コンサルティング グループに勤務し、主に通信業界・消費財業界の企業経営に携わる傍ら、プロボノ活動としてNPO法人TABLE FOR TWO Internationalの新規事業立ち上げにも従事。NPOとビジネスの両方のバックグラウンドを活かし、クロスフィールズを創業。世界経済フォーラム(ダボス会議)のグローバル・シェイパーズ・コミュニティーに2015年より選出。
<外資BIG5特集:記事一覧>
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・KENの回想記 ーソーシャル領域との出会いと、天職の見つけ方ー
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