新卒で大手企業に行くべきでしょうか、ベンチャーに行くべきでしょうか?
大阪大学4年 ♂ トマツさん
ワンキャリアの北野唯我(KEN)です。
この連載では、私のこれまでの経験を踏まえて、皆さんのキャリア相談にお答えしています。
「ベンチャーか、大企業か?」と悩むのは「赤いりんご」が好きか、「青いりんご」が好きか? で迷っているのと同じ
自分で将来何かやりたいと思っている学生さんからたまに聞く質問が、「ベンチャーか、大企業か?」というもの。具体的には、「将来起業したいと思っているが、新卒で力をつけるためにベンチャーを選ぶべきか、大企業を選ぶべきか」という質問です。
結論からいうと、この質問をしている時点で、間違いなく大企業を選んだ方が無難です。なぜでしょうか?
その着眼点は、会社の本質的な部分ではない
「ベンチャーか、大企業か?」という質問の着眼点は、会社の形態にあって、会社の本質的な部分を見ていません。会社の本質的な部分とは、「その企業が、どうやってお金を稼いでいるか?」という事業内容です。「ベンチャーか、大企業か?」は、「その会社が何をやっているのか?」という部分ではなく、「どれだけリスクが存在しているか?」「他の人や家族から、どんな風に評価されるだろうか?」の話です。ビジネスとしては、枝葉の部分の対立です。
言い換えれば、「リンゴか、オレンジか?」という味ではなく、「赤いりんごか、青いりんごか?」という外観を、気にしているということです。つまり、内容より、他者からどう見られるかを気にしているなら、間違いなく新卒では大企業を選んだ方が無難です。
ベンチャーで活躍できる学生は「自分に圧倒的な自信がある学生」か「強烈なコンプレックスをエネルギーにして働ける学生」のどちらか
反対に、ベンチャーで活躍できるのはどんな人でしょうか?
結論からいうと「自分に圧倒的な自信がある学生」か「強烈なコンプレックスをエネルギーにして働ける学生」のどちらかだと感じます。なぜでしょうか。まずは、ベンチャーと大企業の違いを見てみましょう。
ベンチャーの特徴は「リスクが高いこと」と「仕事や居場所を自らつくる必要があること」
そもそも、ベンチャーというのは大企業と比べてつぶれる可能性を多く抱えています。これは、現預金や信用力が低いことによる「ファイナンス」の側面もはもちろんのこと「その他のリスク」も存在します。例えば、ベンチャーは創業時の経営陣が株式を持っていることも多く、「経営陣同士の金の問題」でマネジメント層が空中分解する可能性が、上場している大企業と比べて高いのが現状です。
大企業は「先生からの宿題」が与えられ、ベンチャーでは「夏休みの課題」が与えられる
ベンチャーと、大企業のもう1つの違いは、「働き方」です。定型化され、やるべきことが明確な大企業は、指示を待っていても仕事がきます。いうならば、上司が「宿題」を毎日与えてくれるイメージでしょうか。繰り返していけば、確実に成長はできます。
一方で、ベンチャーは待っていても仕事はやって来ません。自主的に仕事を作りにいくことが求められます。大企業に比べて、育成の仕組みもありません。確実な成長は確約されていません。例えるなら、夏休みの自由課題が与えられ、自ら自分で問いを立てて検証していく必要があります。そういったマインドセットを持っているなら、ベンチャーでよりよい成長ができるでしょう。
「暗闇の中で自走する」には、将来の不安からくる強い切迫感か、自分なら何でも乗り切れるという強い自信が必要
リスクがある中で、進むことは想像以上に苦悩の連続です。その中でもイキイキと働き、活躍し続ける学生もいます。その特徴を一言で形容すると「ものすごく自分に自信を持っている人」か、その反対に「自分の奥底に眠る、深いコンプレックスをエネルギーにして、働ける人」です。
過去の経験に基づいた「深い自信」は将来の不安を押しのけます。あるいは、理想と現状のギャップを感じ、それを埋めるために強烈なコンプレックスを持っている人は暗闇の中でも逆転を狙い、働くエンジンを持っています。
むしろ、上記のようなエネルギーを持った学生は大企業にいくと、不幸になる可能性もあります。「出る杭(くい)」として扱われる可能性があるからです。したがって、「将来の不安からくる強い切迫感を持つ学生」や「圧倒的な自信を持っている学生」は、ややベンチャー向きと言えるかもしれません。
新卒でベンチャーを選ぶなら、少なくとも、有名企業で経営を学んだ人が経営陣に1人はいる会社を選んだ方がいい
では、ベンチャーを選ぶとしたらどんな企業がオススメでしょうか?
結論からいうと「新卒でベンチャーを選ぶなら、少なくとも、有名企業で経営を学んだ人が経営陣に1人はいる会社を選んだ方がいい」と考えます。ベンチャーの経営者には「天才」がいます。それは学歴的な頭の良さではなく、物事の本質を一瞬で見抜き、世の中やユーザーが求めるものを一瞬で見抜く力です。ですが、「天才」の弱点は、自分の技術を他人に教えることができず、会社が大きくなる際にぶち当たる壁(キャズム)を乗り越えられないことにあります。組織が大きくなるにつれて必要になるのは、仕組み化です。
経営陣に、大企業で経営を学んできた人がいる企業は、仕組み化するフェーズをうまく乗り切り、壁(キャズム)を乗り越えられる可能性が高まります。大企業の育成を経験しているため、教育に関しての知識もある。従って、新卒でベンチャーを選ぶなら、経営陣に有名企業で経営を学んできた人がいる会社を選んだ方がいいと私は考えます。(ちなみに、ここでいう大企業には「コンサルティングファーム出身者」は含みません)
反対に大企業に行かない方が幸せになる人は「将来やりたいことがなんとなくあり」「浪費グセのある学生」
一方で、大企業に行かない方がいい人もいます。新卒で日系の大手企業に行く最大のリスクは「挑戦しない理由が増えていくこと」です。あえてスタンスをとって語りますが、日系の大企業というのは想像以上に「何もしなくても生きていける」のが現実です。若い頃は「やりたいことがあって、そのためのファーストキャリアだ!」と思っていても、年数を重ねるうちに年収がどんどんあがり、家族を持つと、会社をやめることの機会費用が大きくなっています。
私自身が大企業を2回やめた経験から痛感しますが、1000万円以上という年収と、高い社会的ステータスを捨ててまで、自分のやりたいことに飛び込むことは容易ではありません。相当な意思や背景がないと難しい。だからこそ、自分がやりたいことが明確で、いざというときに「やめる」という決断を下せる人、または給料と生活水準に因果関係がなく「お金がなくても楽しめる」人こそが、ファーストキャリアは大企業に向いていると私は思います。大事なときに、給料を捨て、会社をやめるという決断が下せるからです。
本質的な仕事は、ベンチャーの方が楽しい
最後に、仕事には、2つの側面があります。1つは、生きていくための側面。お金を稼ぎ、明日の食料を確保するためです。もう1つは、人生を豊かにしてくれる側面。自分のやりたいことを仕事を通じて実現する喜びなどです。
私はこれまで、日系大手・外資系大手・ベンチャーで働いてきましたが、本質的な仕事の楽しさはベンチャーが圧倒的に一番です。事業のスピード、自分たちで事業を作り上げていく感覚、これらは成熟した大手企業ではなかなか感じられません。加えていうとすれば、私自身は「本当に優秀な人こそベンチャーに飛び込んでほしい」と強く思います。むしろ、「そんな優秀な学生が、大企業にいってどうするの?」とまで思います。ファーストキャリアとして大企業で力をつけて、ぜひ、最終的にはベンチャーに飛び込んできてほしいと感じます。
この記事の目的は不幸なミスマッチを防ぐことです。1度しかない人生を後悔しないための一助になれば幸いです。
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※こちらは2016年5月に公開された記事の再掲です。